楽しくジャンケン

ゲームは、言ってしまえば「ジャンケン」だ。
八〇年代に突然、日本全体を巻き込んだ「ジャンケン」ブームはその勢いをかって文化として成熟する。
その過程で、ジャンケンは3Dと言う概念を得た。今まで2Dで書き込まれた「拳」に奥行きが加わる事によって表現力が増した。またリアルタイムに60fpsで生成されるCGによって、細かい「拳」の動きや、キャラクター毎の差が描きやすくなった。

しかし、ジャンケンはジャンケンである。

その後、大容量の記録媒体を得て、ジャンケンに関連してムービーを流す事が可能になった。リアルな声も収録されるようになった。
「グー」や「パー」のバックボーンがムービーで描かれ、それぞれの深みが増した。

しかし、ジャンケンはジャンケンだ。

更に、ジャンケンを知り尽くしたユーザーの為に、グーとチョキの間に256段階の個性が付き、瞬時に後出しする事によって技が繰り出され、グーグーパーチョキと連続させる事によって、強力なコンボを繰り出す事になった。

こうなってくると一見さんや、単純にジャンケンをしたいユーザーは離れていった。
大容量の記録媒体も、人気声優が「ジャンケンポン」の声を当てる事に終始し、始めは珍しがられたバックボーンを描くムービーも、ムービーの合間にジャンケンを申し訳程度にする、主客逆転が起きた。

もはや、何がなんだかわからない。

他に娯楽は沢山あるわけだから、それらにお客さんは流れていく。ジャンケンの売り上げはどんどん落ちていく。

これではいかん、とジャンケンメーカーは思った。

任天堂は、一度その流れをリセットし、今度はかくれんぼや手つなぎ鬼を提案した。
今まで複雑になりすぎたジャンケンを忘れて、新たな遊びを一から始めようと言うのだ。
SCE(プレイステーション)は、今までの流れをもっと豪華にして、お客の気を引こうとした。
ジャンケンの拳は、毛穴や汗腺まで描き込めるCGで、HD画質で60fpsで見せる事が出来る。今までよりもずっとリアルに、何種類もの拳が、データーとして収録される。DVDの記録媒体では収まらないので、BDと言う新メディアで、ものすごい量の拳を収録できる。
人気声優の「ジャンケンポン」も5.1chサラウンドで、プレイヤーの周囲にリアルに再現できる。

任天堂の作戦は成功して、今までジャンケンから離れていたお客さんも、わくわくしてかくれんぼに参加してくれた。しかも任天堂は、お客さんどおしが離れていても一緒に遊べるように、とか、年齢の差を感じさせないように、とか細かい気配りをしてくれた。
そして今度は、椅子とハンカチを取り出して来て、椅子とりゲームやハンカチ落としをしましょうと、提案してくれた。お客さんは、単純だけど楽しい遊びにわくわくしている。
一方SCEの豪華なジャンケンは、高度なテクノロジーを用いるため、みんなが遊べるまでまだまだ時間がかかりそうだ。しかも、豪華なジャンケンを遊ぶ為には、その性能にみあった料金を払う事になった。この豪華なジャンケンにしては、安い! とマスコミもSCEも言うけれど、でもジャンケンでしょ? とお客は訝しがる。

僕らは、豪華な声優とか、何百種類もある拳とか、リアルな毛穴とか、
そう言う物を求めてるんじゃなくて、ただ楽しくジャンケンがしたいだけなのになあ。